大判例

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最高裁判所大法廷 昭和26年(オ)243号 判決

上告人の上告理由第一点の論旨は、原判決が上告人の請求の中昭和二一年勅令第六八号「恩給法の特例に関する件」(以下恩給法特例と略称する)が日本国憲法に適合しない命令であることの確認を求める部分を却下すべきものとしたのは、憲法八一条及び三二条違反の違法があるというのである。しかし、現行法制上裁判所に与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とし、従て現行法制上裁判所が、かような具体的な争訟事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を持たないことは、当裁判所の判例(昭和二七年(マ)第二三号、同年一〇月八日言渡大法廷判決参照)とするところであつて、所論憲法八一条違反の主張は採用できない。また裁判所に裁判権のない以上、所論訴を不適法として却下したからといつて、裁判を受ける権利を奪つたことにならないことはいうをまたないところであつて、所論憲法三二条違反の主張は理由がない。

同第二点の論旨は、原判決が、恩給法特例は憲法一三条、一四条及び恩給法七三条違反の命令であつて無効であるから、上告人は今尚扶助料の支払を受ける権利があるとの上告人の主張に対し、右恩給法特例は、昭和二〇年勅令第五四二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」により適式に発せられたもので、憲法又は法律によりその効力を左右されるものでないと解せられると判断したのは、憲法八一条違反の違法があるというのである。しかし、恩給法特例は、昭和二〇年勅令第五四二号に基き発せられたいわゆるポツダム命令であるが、右勅令第五四二号及びこれに基き発せられたポツダム命令は、わが国が連合国の管理の下に置かれていた間は、日本国憲法にかかわりなく、憲法外において法的効力を有するものと認めなければならないことは、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第六八五号、同二八年四月八日言渡大法廷判決参照)の趣旨とするところであり、また所論連合国最高司令官覚書第六項の除外例は、論旨のように恩給金停止者に対し許可申請の途を開いた趣旨と解すべきでなく、従つて恩給法特例が連合国最高司令官の覚書に違背したものであるとの所論は採用できない。それ故原判決が、前記勅令第五四二号に基き適式に発せられた恩給法特例は、憲法又は法律によつてその効力を左右されるものでないと判示し、従つて、上告人の請求の中右恩給法特例が無効であることを前提として昭和二一年乃至二三年分の扶助料合計金額中金一万円及びこれに対する損害金の支払を求める部分を棄却したのは、何等憲法八一条に違反するものではなく、また何ら同一三条、一四条に違反するものとは認められない。

以上の理由により本件上告はこれを棄却すべきものとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 田中耕太郎 霜山精一 井上登 栗山茂 真野毅 小谷勝重 島保 斎藤悠輔 藤田八郎 岩松三郎 河村又介 谷村唯一郎 小林俊三 本村善太郎 入江俊郎)

上告人の上告理由

第一点 原審判決理由中不適法却下の点は憲法第八十一条に違背せる所謂違憲処分なる違法がある。

右摘示の判決理由は命令が日本国憲法に不適合なる命令で無効であることの確認を求めるものであつて、一般的抽象的に法令自体の無効確認を求めることは現行法令下における司法権の範囲外にあり、裁判所において裁判する権限はないと解するから不適法として却下すべきであると判断している。

此理由は憲法第八十一条に違背し且つ同法第三十二条の裁判受権を侵奪せる不法がある。

即ち憲法第八十一条は最高裁判所は一切の法律命令規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であると規定せるは、本件命令が憲法に適合する有効の命令であるか又は適合しない無効のものであるかを決定する権限が各裁判所にあることを定め、然も一切の法律命令と表示せるを以て原判決の所謂一般的抽象的に法律命令自体の無効確認を求めるものであるとの見解に相当するものであるから、原判決は此権限を無視して審理しない違法があると共に、上告人の基本的人権の一種である憲法第三十二条の裁判受権を侵奪せる違憲判決であつて、第八十一条の所謂処分に該当する違憲決定の訴訟物であります。

ちなみに上告人は法令の無効確認を求めるのではなく、訴因第一項で本件命令が違憲命令なる決定を求めると主張しているのであります。

第二点 本件扶助料停止命令は恩給法第七十三条、憲法第十三条、同第十四条に違背せる違憲命令なりとの主張を排除せる判決は憲法第八十一条に違背せる違法がある。

原審判決は本件扶助料停止命令はポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件により適式に発せられたもので、憲法又は法律によつてその効力を左右されるものではないと解すると判断している。

然れども日本国憲法は「ポツダム宣言」の受諾により連合国の管理下において公布せられた日本国の最高法規であります。従つて憲法施行後における一切の法律命令規則処分は憲法第八十一条の決定対象物即ち訴訟物となり得るものであります。

憲法上の内閣機関が発する命令に対しては裁判所はその命令自体が違憲なりや否やを決定すべき権限を有するものであつて、その命令が「ポツダム」宣言受諾に伴い発する命令であるから憲法外なりとの抽象的判断それ自体が第八十一条に違背せる処分であります。

更らに進んで本件停止命令の基本である千九百四十五年十一月二十四日連合国軍最高司令部覚書AG二六〇号に基いて発せられたものであれば此基本覚書と命令とが一致せるか否か、即ち適法であるか否かも亦法第八十一条の範囲内に容るべきものであらねばならない。

被告提出の答弁書附属二六〇号覚書を検討するに、その第六項において「本覚書ニ依リ必要トナリタル許可申請ヲ為サントスルトキハ大蔵省ヲ経由シ書面ヲ当司令部ニ差出スベシ」と明記せられ恩給金停止者に対し許可申請なる途を大蔵省経由司令部に差出し得る除外例が示されている。

然るに本件勅令六十八号には此除外例、即ち特例となるに必要なる許可申請の途は全文中那辺にも発見しないのみならず、他の命令その他の処分においても此特例を発見しないのであります。

此点においても本件命令は二六〇号覚書第六項に違背し、結局憲法第十三、十四条に違背せるものであります。

右の理由に基き大法廷開始を求め、原審判決を破毀し上告趣旨の判決を求めます。

以上

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